認知症疾患
医療センター
認知症の詳しい診断や、認知症の周辺症状および身体合併症への急性期における対応、
専門医療相談等を実施しています。
認知症について
認知症とは、認知機能が低下した状態を指すもので、具体的な病気の名前ではありません。認知症を引き起こす疾患は非常に多く、表に示したものはそのごく一部です。よく耳にするアルツハイマー病、レビー小体型認知症などは、あくまでも認知症という状態を引き起こす病気の一つであって、認知症とイコールではありません。認知症(認知機能の低下している状態)は、例えば持病の悪化などあらゆる身体不調、外傷、視力低下、難聴、意欲低下などによる注意力・集中力低下等によっても起きることがあります。そのため、診断には画像検査や長谷川式スケールなどの認知機能評価スケールだけではなく、精神疾患全般に通じた認知症専門医や身体疾患を見逃さない体制が重要になります。なお、たとえアルツハイマー病、血管性認知症などと診断されても、多くの場合それらは単一で存在せず、重複していることがわかっています。そのため、一度診断をし、適切と思われる治療を開始したとしても、経過をみていくことが重要です。さらに、抑うつ、パニックなど精神疾患の合併も経過中にはよくあることであり、それらにいかに適切に対応するかが重要です。当センターでは、精神医療に精通した医師および内科をはじめとした各科の支援体制を整えています。
認知症を引き起こす疾患
- 感染症(梅毒・ヘルペス脳炎など)
- 代謝性疾患(肝性脳症・アルコール関連)
- 甲状腺機能低下症
- 正常圧水頭症
- 頭部外傷
- 脳腫瘍
- 慢性硬膜下血腫
- 薬剤性
- うつ病
- その他
参照:認知症テキストブック:日本認知症学会編、
中外医学社、2010
入院について
認知症の経過中に、病気のために本人および周囲が混乱したり、病気そのものが悪化したりした際に一時的に入院が必要になることがあります。まずは、介護保険サービスで対応していただくのが原則ですが、デイサービス、ショートステイ、各種介護施設で対応が限界になった場合など、介護破綻が考えられる場合は早急な入院対応が求められます。本人やご家族、施設スタッフのSOSに気づくのが遅れると、虐待などの不幸な出来事が起きることも残念ながら時に経験します。なお、認知症がひどくなったと思って入院を希望して来院しても、認知症病棟に入院するとは限りません。先にお話ししたように、一見認知症の増悪(認知機能の急激な悪化)のように思えても、実は身体疾患によるもので、適切な身体治療によって改善が期待できるものもあるからです。そのような場合、院内の身体科医師と連携をし、内科病棟に入院する場合もあります。
介護保険制度の下では、身体拘束、過剰な抗精神病薬は原則として禁止となっています。あくまでも、転倒や骨折を避けようと思うと、ベッドや車いすに縛るという身体拘束になりがちです。転倒、外傷などは避けるべきですが、それを防止しようと拘束をすると、不要な興奮や体調不良を招きます。認知症病棟では、リスクをご家族にも十分説明をしたうえで、本人の意思を尊重し、できるだけ「動きたい」「立って歩きたい」などの気持ちを尊重するため身体拘束を廃止しています。
もの忘れ外来はこちら認知症疾患医療センターとは
認知症疾患医療センターとは、2008年度から創設されたもので、認知症専門医、臨床心理士、保健師、精神保健福祉士などの人員配置に加え、MRIなどの検査体制、医療相談室の設置などが要件となっています。主な役割としては、認知症の鑑別診断、診断後のフォロー、症状増悪期の対応、BPSDや身体合併症に対する急性期医療の提供などがあります。
当院の認知症疾患医療センターについて
当センターは2012年に名古屋市より指定を受け、以来、医師会、いきいき支援センターなどと協力して業務を行っており、多数の認知症専門医が外来及び入院診療に携わっております。身体合併症については、眼科、整形外科、循環器科、皮膚科の外来診療に加え、入院治療においては、一般内科、脳神経外科医も常勤医として関わっています。よく、認知症の方が身体合併症になると総合病院などへの転医がスムーズにいかない、等の問題が起きますが、通常の内科治療は院内で可能であり、脳内病変についても他院に受診せずとも、院内でコンサルタントを受けることができます。
まつかげシニアホスピタル・
認知症疾患医療センターは以下の事業を行います
-
認知症疾患に対する鑑別診断・初期対応
認知症かどうか、鑑別診断を検査・診察を行いながら総合的に判断し、認知症と診断された場合は、本人、ご家族と相談のうえで治療方針を決定します。その際、MRIや核医学検査を必要に応じて使用することがあります。方針が決定した後は、かかりつけ医に経過を見ていただき、状況が変わったり心配なことがあったりした時に、適宜受診していただきます。その際、かかりつけ医からの情報提供書をお持ちいただくとスムーズです。
-
認知症疾患の周辺症状や身体合併症に対する急性期対応
「対応に困り、家族が疲れ切ってしまった」「デイサービスで、怒りっぽい」と言われた、などお困りの状態について、診断、治療を行います。認知症の周辺症状の原因が身体合併症である場合もありますので、その初期診断、初期対応を行います。通常、内科治療は当院で対応可能ですが、手術など高度身体治療の必要がある時は、協力医療機関と連携を図りながら対応します。
-
専門医療相談
医療相談室に精神保健福祉士、社会福祉士、公認心理師等を配置し、電話や面接で認知症の方とそのご家族のほか、
医療・介護福祉関係者からの相談に応じます。受診予約に関しても医療相談室にて承ります。052-352-4165(ヨイローゴ)
FAX
052-352-3271
受付時間/
平日 8:30~16:30 土曜 8:30~11:30 -
かかりつけ医等への研修会の開催
認知症についての知識を深めるため、地域のかかりつけ医や医療関係者などに対し、研修会を実施します。また他の主体が実施する研修会に協力します。
- 認知症サポート医フォローアップ研修講師
- 名古屋西認知症疾患病診連携勉強会(中川区医師会、介護事業所などを対象とした事例検討会)
-
保険医療機関や介護保険事業所など各関係機関との連携
認知症の方を支えていくために地域における保健医療機関や介護保険事業所、行政機関等の皆さまと連携を図っていきます。
- 受診前の家族相談(中川区東部、西部いきいき支援センター)
- 認知症初期集中支援チーム なごや認知症あんしんナビはこちら
-
一般市民を対象とした啓蒙活動・研修・社会活動
センターでは、診療活動のほか、認知症の研修の運営・講師、各種社会貢献事業へも、積極的に参加しています。
センター長紹介
水野 裕(みずの ゆたか)
プロフィール
研修医修了後、アルツハイマー病など認知症の臨床経過と脳との関係を探る臨床神経病理学を専攻した。その後、脳の研究ではなく、認知症の人がいかに幸せに生きるか、に関心が向き、日本認知症ケア学会の地域部会、各県のケア専門士会担当の理事として、地域活動に尽力した。認知症の人を「病状」としてではなく、社会でともに生きる「人」として、みるべきというパーソン・センタード・ケアの理念を2002年以来、英国を主とした世界各地のリーダーと学び、実践を試みている。
略歴
- 1987年
- 鳥取大学医学部医学科卒業
- 2001年
- 認知症介護研究・研修大府センター
研究部長 - 2004年
- 一宮市立市民病院今伊勢分院老年精神科
部長、老人性痴呆疾患センター長 - 2007年
- 同病院診療部長
- 2008年
- いまいせ心療センター診療部長、
認知症センター長 - 2010年
- 同センター副院長
- 2013年
- 認知症疾患医療センター長
- 2019年
- 7月より、現職
認知症介護研究・研修大府センター
客員研究員 兼務
パーソン・センタード・ケアとDCM(dementia care mapping認知症ケアマッピング)ストラテジックリード(世界にパーソン・センタード・ケアを広げるための日本の代表)
専門
老年精神医学
資格
精神保健指定医/医学博士/日本老年精神医学会専門医・指導医/日本認知症学会専門医・指導医/介護支援専門員
学会関連
日本老年精神医学会評議員、日本認知症学会評議員、日本司法精神医学会評議員、日本老年精神医学会 社会活動部会運営地域担当委員
活動
-
著書
- 「実践パーソン・センタード・ケア」(2008年、ワールドプランニング社)
- 「認知症の人の主観に迫る~真のパーソン・センタード・ケアを目指して」(山口・北村・水野共著、協同医書出版社、2020年)
- 「私が学んできた認知症ケアは間違っていましたーパーソン・センタード・ケアの本質を知るー」(2021年、ワールドプランニング社)など
-
監訳
- 「パーソン・センタードなケアプランニング」(2016年、クリエイツかもがわ)
- 「私の記憶が確かなうちに」(2017年、クリエイツかもがわ)(初めて、自分がアルツハイマー病であるとマスメディアに公表をしたオーストラリアのクリスティーン・ブライデン氏の自叙伝)
- 「VIPSですすめるパーソン・センタード・ケア」(第2版、2021年、クリエイツかもがわ)
-
ネット動画配信
- 臨床看護のeラーニング CandY Link MCメディカ出版
- 月イチゼミ 特集「マッピング(DCM)で読み解く!人中心の認知症ケア」水野 裕(2020年9月1日から聴講可能)
-
ビデオ
- 「認知症の人 本人に学ぶ 〜パーソン・センタード・ケアと認知症について考える〜」(制作・著作 シルバーチャンネル、2021年)
-
シルバー新報による取材記事
著者インタビュー記事(PDF) -
「パーソン・センタード・ケアとDCM(認知症ケアマッピング)」オンライン版基礎コース(年4回開催)
- 英国ブラッドフォード大学と提携し、本場のパーソン・センタード・ケアを学ぶことができます。
- 詳細は、ホームページ参照